H30 国家総合職 専門試験(記述式) 憲法 解答例

H30 国家総合職 専門試験(記述式) 憲法 解答例

 

問1について

 

1 A市が条例により、入れ墨を公然と公衆の目に触れされることを禁止することは、「入れ墨を隠さず、海水浴場を利用する自由」を制約しているが、違憲ではないか。

2 上記自由は、憲法13条後段の「幸福追求権」として憲法上保障される。だが、公共の福祉による最小限の制約に服する(13条後段)。

3 

(1)ここで、条例による制約が最小限の制約といえるかどうかの審査基準が明らかでない。

ア 上記自由は、一度侵害されると民主政の過程で是正困難な精神的自由である。上記自由は、自己統治の価値があるとは言い難いが、少なくとも自己実現の価値はあるといえる。

イ 規制態様は、A市という場所に着目した規制であるといえるため、規制の程度は弱いといえる。なぜなら、A市以外の海水浴場を入れ墨を隠さずに利用することは妨げられていないからである。

ウ また、海水浴場を利用する他の者が平穏に海水浴場を利用する自由も、「幸福追求権」として憲法上保護に値する。

(2)よって、中間的な基準(①重要目的と②実質的関連性ある③十分合理的な手段であれば最小限と解する)を採用する。

4 

(1) まず、①について、自然の保護と家族客が安心して楽しむことができる環境の復活は、重要目的といえる。なぜなら、大都市の近郊にありながら、自然環境と歴史的景観に恵まれた観光地は貴重だからである。
(2) 次に③の手段については、あくまで場所に対する規制であり、十分合理的といえる。
(3) そして、手段③をとれば、A市海水浴場に入れ墨が公に見せる利用者がいなくなり、他の利用者が怖がるおそれがなくなるといえ、少なくとも目的①の家族が安心できる環境を整備することができるといえる。
5 以上より、A市条例による規制は、最小限といえ、合憲である。

 

問(2)について

 

第1 A市条例によって、海水浴場における飲酒を全面禁止することは、飲酒をしたい人の「飲酒をする自由」を制約しているが、違憲ではないか。

1 たしかに、上記自由は、憲法13条により保障される。

2 しかし、公共の福祉による最小限の制約に服する。

3 審査基準は、問(1)と同様に、中間基準をとる。

 ア ①未成年者や大学生の過度な飲酒を防止することや、飲酒運転を撲滅することは、重要な目的である。

 イ ③の手段について、マナー向上を訴える看板の掲示が効果がなかったことから、全面禁止は十分合理的な手段といえる。

ウ ③によって、飲酒が禁止される以上、飲酒に起因する事故は減少することが予想される。

4 したがって、全面飲酒禁止は最小限の制約であり、A市条例による規制は合憲である。

 

第2 A市条例により、種類販売を全面禁止することは、種類販売業者の「酒を販売する自由」を制約しているが、違憲ではないか、。

1 酒類販売の自由は、職業遂行の自由を保障する「職業選択の自由」(22条1項)における「営業の自由」として憲法上保障される。

2 しかし、公共の福祉による最小限の制約に服する(13条後段)。ここで、最小限かどうかの審査基準が明らかでない。

3 (1)上記自由は、民主政の過程で回復することが容易な経済的自由権である。規制態様も、海水浴場という場所に着目した規制である。しかし、海の家の売り上げの3分の1がなくなるという点では、強い規制ともいいうる。

4 (1)したがって、緩やかな基準(①合理目的②合理的関連性ある③一応合理的な手段であれば、最小限と解する)と採用する。

  (2)①については、上記3ア①より、重要といえる。③の手段も一応合理的といえる。そして、③の手段を取れば、酒を飲むことができなくなり、①の目的も達成できる。

5 したがって、規制は最小限であり、合憲である。